改変型アデノ随伴ウイルスに関する特許が成立

自治医科大学の村松慎一特命教授の研究成果から生まれた、「遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)により、治療用遺伝子を高い効率で神経系細胞に送達する技術」につきまして、自治医科大学が出願人となり特許出願を行ってまいりましたが、2015年1月30日付で特許証が公布され、正式に日本国特許庁において特許が成立しました。

なお、当該特許は当社が日本国内及び海外全域における実施権(期間20年)を保有しています。

 

成立した特許の情報は以下の通りです。

 

出願番号:PCT/JP2011/075240

発明の名称:神経系細胞への遺伝子導入のためのアデノ随伴ウイルスビリオン

出願人:学校法人自治医科大学

発明者:村松慎一 特命教授

 

特許査定となった技術・方法の具体的な内容:

現在、中枢神経疾患に対して治療薬が全身投与されていますが、血液脳関門などの防御機能のため多くの薬剤が脳や脊髄の神経細胞に効率よく送達されないという問題があります。遺伝子治療においても治療用の遺伝子を脳や脊髄の広い領域の神経細胞に導入することは困難でした。

本発明では、アデノ随伴ウイルス(AAV)の外被蛋白質の改変を行い、さらに神経系細胞に特異的なプロモーターを利用することにより、血管などの末梢投与により高い効率で広範な領域の神経系細胞に遺伝子導入可能な組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の作製に成功しました。本発明のAAVは4.7kb程度のゲノムを含み、ゲノムサイズが2.2kb程度の自己相補型AAVに比べて治療用遺伝子をより広く選択できます。

本特許は、この血液脳関門を通過し治療用遺伝子を脳、脊髄などの神経系細胞に高い効率で遺伝子導入できる組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)を権利化したものです。神経疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症など)や先天性代謝障害などに対する治療用の遺伝子を含むAAVにも本発明の医薬組成物として権利が及びます。

 

今後の当該特許の活用及び研究:

当社が本特許の実施権を保有しており、自治医科大学及び他の協力研究機関等と連携し、当該技術の臨床応用にむけた研究開発を推進していきます。具体的には、本技術が目的とする遺伝子を脳と脊髄の広範な領域の神経系細胞に発現することを可能にしたものであることから、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など神経疾患に対する遺伝子治療の早期実現を目指します。

 

【用語解説】

>>アデノ随伴ウイルス(AAV):

AAVは、動物ウイルスの中で最も小型の線状一本鎖DNAを含むウイルスです。霊長類では100種類以上のAAVが分離されていますが、いずれも病原性はありません。遺伝子組換え技術により治療用の遺伝子を挿入して、特定の細胞や組織で目的の蛋白質を発現させるベクター(運搬体)として遺伝子治療の臨床研究に利用されています。含まれるDNAが二重鎖になっている自己相補型self-complementary AAVベクターもあります。自治医科大学では、AAVベクターを使用してパーキンソン病の遺伝子治療の臨床研究を実施してきました。

 

>>プロモーター:

遺伝子の発現を促進するDNAの配列です。今回の発明では、神経細胞や乏突起細胞などで選択的に目的遺伝子を発現させるプロモーターを搭載しています。その結果、他の組織では、遺伝子が発現せず有害な反応の発生が抑えられます。