AAVベクター

当社の遺伝子治療では、治療遺伝子を神経細胞に導入するベクターとしてアデノ随伴ウイルスadeno-associated virus(AAV)を使用します。AAVはパルボウイルス科デペンドウイルス属に分類される直径約26nmのウイルスです。AAVには100種類以上が知られていますが、最も研究が進んでいるのが2型AAV (AAV2)です。AAV2の外被はVP1 (82kDa)、VP2 (65kDa)、VP3 (60kDa)という3種類の蛋白質が1:1:10の比率で集合し構成されています。ゲノムは4,679ヌクレオチドから成る1本鎖DNAであり、プラス鎖とマイナス鎖がほぼ同じ比率で混在します。ゲノム両末端145ヌクレオチオドはT字型ヘアピン構造を形成しておりinverted terminal repeat (ITR)と呼ばれます。AAVゲノムにはrepとcap遺伝子がありそれぞれ非構造蛋白質と外被蛋白質をコードしています。AAVはアデノウイルス、ヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスの存在下でのみ増殖でき、単独では増殖できません。単独で細胞に感染した場合、第19番染色体のAAVS1領域(19q13.42)に特異的にそのゲノムを組み込み、潜伏感染の状態となります(図2)。 AAV2の感染に伴う特有の疾患は報告されておらず、非病原性です。通常、出生直後はAAVに対する抗体は検出できませんが、学童期で人口の50%以上で抗体が陽性となり不顕性感染していると考えられます。
AAVベクターは、血友病、網膜色素変性症、嚢胞性線維症などに対する遺伝子治療の臨床試験が実施されていますが、ベクターに関係した重大な副作用は認められていません。

 

 

導入遺伝子がAAVベクターにより染色体に組み込まれる可能性は極めて低く、導入遺伝子は基本的に染色体外に存在すると考えられています。AAVベクター内では導入遺伝子は一本鎖DNAですが、細胞内で二本鎖DNAに変換され導入遺伝子が発現します。AAVベクターにより神経細胞に導入された遺伝子の発現は長期間持続することが明らかになっており、米国で実施された遺伝子治療の臨床試験では、剖検例で4年後にも被殻の神経細胞で治療遺伝子の発現が確認されています。

当社研究の特徴

当社は2つのオリジナルのAAVベクターを保有しています。このようにAAVベクターに関する特許を保有している企業は世界的に見てもほとんどありません。つまり、欧米では当社のようなAAVベクターを使った遺伝子治療薬を開発するバイオテック企業は複数存在しますが、その多くはAAVベクターを他社からライセンスインし、多額のライセンス料を支払っています。当社は、このようなライセンス料を支払う必要がないばかりでなく、他のバイオテック企業にライセンスアウトすることによる収益の確保も可能となります。

図:オリジナルAAVベクター