東京大学及び自治医大との共同研究契約を締結

当社は、8月19日付けで、国立大学法人東京大学(以下、「東大」)及び学校法人自治医科大学(以下、「自治医大」)と共に筋萎縮性側索硬化症(以下、「ALS」)遺伝子治療の前臨床研究を行う共同研究契約を締結しました。

 

昨年のマウスでの研究において、国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター臨床医工学部門客員研究員、及び、当社顧問)らの研究グループは、自治医大村松慎一特命教授(当社取締役)と共同で、脳や脊髄の運動ニューロンのみにADAR2(RNA編集酵素)産生遺伝子を発現させるアデノ随伴ウイルス(改変型AAV9/3)ベクターを開発し、このベクターを孤発性ALSの病態を示すモデル・マウスの血管に投与したところ、ALS特異的な病理変化であるTDP-43機能の正常化が確認され、その運動ニューロンの変性と脱落、及び、症状の進行を食い止めることに世界に先駆けて成功しました。この研究は、昨年の病態モデル・マウスに対する効果検証を実施した研究(注1)に続く、大型動物(カニクイザル)による安全性試験の位置づけです。

ALSは主に中高年に発症する、進行性の筋力低下や筋萎縮を特徴とした数年内に呼吸筋麻痺により死に至る神経疾患で、現時点で病勢の進行を止める有効な治療方法はありません。ALSの大多数(90%以上)は遺伝性のない孤発性ALSで、長らく原因不明とされてきました。本共同研究者らは、孤発性ALSの運動ニューロンの解析から、AMPA受容体のサブユニットGluA2に本来生ずべきRNA編集を欠いた未編集型GluA2が発現していること、及び、これがRNA編集酵素であるADAR2酵素の発現低下により引き起こされる疾患特異的分子異常であることをNature誌掲載の論文等(注2)で明らかにしました。未編集型GluA2の発現はALSの神経病理学的指標であるTDP-43病理及び細胞死の原因であることから、この細胞死カスケードが孤発性ALSの病因に密接に関与することが示されており、これらの知見はADAR2活性の正常化が孤発性ALSの遺伝子治療標的であることを意味しています(注3)。

今後は、本前臨床研究と並行しながら、臨床研究及び先進医療制度の適用申請の準備を進め、本前臨床研究の結果を確認した上で、遺伝子治療の早期実施に向けた活動を行ってまいります。

 

注1) Kwak, S. et al: EMBO Mol Med 5, 1710-1719, 2013
注2) Kwak, S. et al: Nature 427, 801, 2004
注3) Kwak, S. et al: Neurobiol Dis 45, 1121-1128, 2012

 

■研究の概要

研究実施主体   : 国立大学法人 東京大学 及び 学校法人 自治医科大学
共同研究者    : 株式会社遺伝子治療研究所
研究題目     : ADAR2発現AAVベクター投与によるALS遺伝子治療の前臨床研究
研究内容     : ALSに対するADAR2発現AAV9/3ベクターを用いた遺伝子治療の前臨床研究(カニクイザル)及び髄腔内投与による安全性試験

 

(予定)研究期間 :平成26年8月より、同27年6月まで

(予定)症例数  :3-4例